古橋織布で約3年半、製織の現場に立ちながら経通しの技術を磨いてきた府川さん。2020年9月に専業の経通し職人として独立し、現在では遠州産地に欠かせない存在となっています。

浜松への移住をきっかけに遠州織物と出会い、ものづくりの現場に触れる中で「経通しをやりたい」と自ら道を切り拓いた府川さん。経通しとは、織物を織る前に経糸を一本ずつ「ドロッパー」「綜絖」「筬」といった器具に通していく工程で、江戸時代から変わらず人の手で行われてきた重要な作業です。

一見地味に見えるこの工程ですが、製織の精度や品質を左右する非常に繊細な仕事であり、高い集中力と技術が求められます。府川さんはその技術を一つひとつ丁寧に習得し、現在では複数の織元から依頼を受けるプロフェッショナルとして活躍中です。

最近では、府川さんの姿に刺激を受けて、3名の女性が経通し職人としての独立を目指す動きも始まっています。人材不足や技術継承の課題を抱える産地にとって、こうした流れは大きな希望です。

この取り組みは繊研新聞でも2日間にわたり紹介され、産地の未来を照らす事例として注目を集めました。

課題の多い産地に、希望の光が差すようなニュースです。
一部本文を紹介します。ぜひご覧ください。

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9/10繊研新聞(1面)

新たな働き方を示す
経通し職人は未来を作る<上>

生地を織るために必要不可な工程である「経通し」。裏方の仕事として捉えられ、高齢化や担い手不足が深刻化していた工程の一つだが、浜松市を中心とする遠州産地でその職人を目指す人が増えている。ある一人の移住者が未経験から独立起業し、子育てしながら働くという新たなロールモデルを確立、経通し職人のイメージを変えた。
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新たな働き方を示す
経通し職人は未来を作る<下>

織布の準備工程の一つである経通し職人を志し、柘植綾子さん、大村直子さん、岡部正子さんが名乗りを上げた。経通し職人として新たな働き方を提示する府川容子さんと3人の出会いを後押ししたのは、産地の人たちだった。
担い手不足は経通しに限らず、他の工程も同じようにある。浜松市を中心とする遠州産地の産地活性化プロジェクト「エントランス」や、産地の生地を使うデザイナーが一体となり、リクルート活動に努めてきた。3人の採用はその取り組みが実ったものだ。